人事の判断は、
どこで止まっているのか。
ご相談は、たいてい「社員が自分で判断しない」という言葉から始まります。
しかし話を聞いていくと、止まっている場所は会社ごとに違います。
ここでは、社長不在テスト™の5領域ごとに、典型的な詰まり方を示します。
※ 以下は特定の企業の事例ではなく、複数のご相談内容をもとに構成した典型ケースです。数値・業種・規模は再構成しています。
5領域と、典型的な詰まり方
| 領域 | 典型的に現れる症状 | ケース |
|---|---|---|
| 役割・権限 | 「社長に確認します」が増える。肩書だけが増えている | CASE A |
| 評価 | 管理職の評価を社長が修正する。理由が説明されない | CASE B |
| 報酬 | 中途採用で給与が逆転する。昇給・賞与を社長が一人で配分する | CASE C |
| 管理職運用 | 優秀な担当者を管理職にしたが、伝達係になっている | CASE D |
| 人事方針 | 誰を採り、何を評価するかが社長の頭の中にしかない | CASE E |
管理職を3名増やしたのに、社長の決裁が増えた
「課長を増やしたのに、相談件数が減りません。うちの管理職は当事者意識が足りないのでしょうか」
お聞きしたこと
役割等級制度は5年前に導入済み。ただし役割定義に書かれているのは、必要とされる能力と基本給のレンジだけでした。「この役割の者は何を決めてよいか」は、どこにも書かれていません。課長本人に聞くと、「決めていいのか判断がつかない」と答えました。
人事判断が社長に戻る経路
まず測ったこと
2週間、社長に上がってきた人事案件を「採用・配置・処遇・評価・例外対応」の5分類と、上げてきた人の役割だけで記録しました。全38件のうち29件が同じ2分類に集中しており、線を引くべき場所が記録の分布に現れました。
ここから先は、会社ごとに異なります。どの役割にどの決裁を配分するかは、事業構造・管理職の力量・過去の失敗事例によって変わります。制度健全度診断™で特定し、90日プランに落とし込みます。
渡したはずの権限が、半年で戻ってきた
「部長に採用の一次決定権を渡しました。でも半年後には、全件が私の決裁に戻っていました」
お聞きしたこと
権限は確かに渡されていました。しかし部長の評価シートは、前年と一字も変わっていませんでした。評価されるのは担当部門の売上と原価率のみ。採用の判断で失敗すれば数字が下がり、成功しても評価には現れない。合理的に考えれば、判断しないことが最も得です。
人事判断が社長に戻る経路
まず測ったこと
直近の評価で、社長が修正した件数と修正理由を書き出しました。修正の理由が「評価基準が足りない」ではなく「基準の解釈が違う」に偏っていたため、着手すべきは評価項目の追加ではなく、基準の擦り合わせであることが分かりました。
ここから先は、会社ごとに異なります。権限に対応する評価をどう設計するかは、承認の三つの経路(情緒的・権利的・価値的)のどこが機能しているかによって変わります。ホメニズム評価設計™で扱う領域です。
誰も口に出さないが、全員が知っている逆転
「人が採れないので、中途の提示額を上げ続けました。気づいたら、勤続12年の主任より入社半年の中途のほうが高くなっていました」
お聞きしたこと
役割定義は存在しますが、中途採用の給与は「市場相場」と面接時の交渉で決めていました。役割定義に照らす作業をしていないため、採用時点の交渉力が社内の序列を上書きしていました。既存社員から見ると、貢献と処遇の対応関係が消えています。
人事判断が社長に戻る経路
まず測ったこと
直近1年に入社した中途採用者13名の給与を、既存社員の役割定義に照らしてみました。どの役割にも当てはまらない人が9名。報酬設計の空白の大きさが、そのまま人数で表れました。
ここから先は、会社ごとに異なります。逆転をどう解消するかは、原資、既存社員への説明順序、労働条件不利益変更の論点が絡みます。ここは法令と実務の両面を同時に見る必要があるため、診断を経てから設計します。
最も優秀な社員を、管理職にして失った
「いちばん売上を挙げていたエンジニアを課長にしました。半年後、本人から退職の申し出がありました。『評価をつけるのが苦痛だ』と言われて」
お聞きしたこと
選任の基準は、実務成績と在籍年数だけでした。評価する、処遇を説明する、育てる、配置を考える——これらは実務能力とは別の力量ですが、選任時にも育成計画にも登場していません。管理職研修は年1回実施していましたが、内容は労務管理の法令知識でした。
人事判断が社長に戻る経路
まず測ったこと
管理職7名に、直近1か月で自分が下した人事判断(評価・配置・指導・例外対応)を3つ挙げてもらいました。3つ挙げられたのは2名。不足しているのは本人の能力ではなく、職務の定義であることが確認できました。
ここから先は、会社ごとに異なります。管理職の職務定義と選任基準は、組織の階層構造と将来の要員計画から逆算します。研修の設計は、その後です。
同じ言葉で伝えたのに、違う評価が返ってきた
「『うちはお客様第一で評価する』と全員に伝えました。その期、赤字受注を取ってきた社員が高評価になっていました」
お聞きしたこと
社長の言う「お客様第一」には、社長だけが知っている例外がありました。長期の関係が見込める顧客か、単発か。粗利率が何%を下回るときは断るのか。その線引きは一度も言葉にされていません。理念は共有されていましたが、判断に使える基準にはなっていませんでした。
人事判断が社長に戻る経路
まず測ったこと
直近で社長が下した人事判断を3つ選び、「なぜそう決めたか」を各1行で書いてもらいました。3行に共通して現れた言葉が、翻訳すべき人事方針の原型になりました。
ここから先は、会社ごとに異なります。基準は定義を書けば伝わるものではなく、具体的な事例の連なりによって示されます。どの事例を選び、どう並べるかが設計の中身です。
会社ごとに違う。
だから、測ってから設計する。
なぜ、事例を先に見せないのか
他社の成功例をそのまま持ち込むことはしません。ある会社で機能した役割定義が、別の会社では形骸化します。50名の会社に100名向けの評価制度を入れれば、初年度から運用が破綻します。
このページで示したのは、解決の手順ではなく、詰まり方の型です。自社がどの型に近いかは、10問・3分で確認できます。
人と会社が、
ともに育つ。
貴社の人事の判断は、どこで止まっていますか。
役割と権限、評価、報酬、管理職の運用、人事方針。5つの領域から、判断が止まる場所を特定します。
制度ではなく、経営判断を設計する。
